謙譲の美徳

古語には、二方面への尊敬という特殊な表現がありますが、謙譲や尊敬というものは日本文化の一面を表しています。
謙譲の動詞+尊敬の補助動詞、もしくは、謙譲の補助動詞+尊敬の補助動詞という表現で、その動作を受ける人と、動作をする人に同時に敬意を払うのです。
ここまで複雑な言語は日本語、特に、古語だけではないでしょうか。

 

茶の湯でも、尊敬や謙譲を重んじます。
そこまで大袈裟でなくとも、敬意を払うことを大事にします。

 

それは、連客にこころせよ、という言葉に表されています。
「お相伴します」「お先に」というような一言などが交わされます。
我先に、というのでいけないのです。
一座建立というように、お互いに敬意を払って茶会や茶事を楽しむことが肝要なのです。

 

また、ホストである亭主は、ゲストである客に対してへりくだっています。
それは、実際の態度や動作のようなソフト面だけではなく、建物のようなハード面でも現れています。

 

例えば、貴人口の高さよりも茶道口の高さが少し低めだったり、客畳よりも点前畳の天井が落ち天井という形式で少し低かったりするのです。
自ずと頭が下がります。

 

更に、貴人点という尊いお客様に対して、お茶を差し上げる点前がありますが、道具を拝見に出す際、貴人に対してお茶をすくった茶杓を畳みに直に置けないということで、袱紗や仕覆に載せて出すのです。
ところが、貴人は謙譲してその茶杓を袱紗や仕覆から外して直に畳みに置いて返すのです。
絶妙な遣り取りが交わされています。

 

昨今、相手に敬意を払うことがないがしろにされたり、自分さえ良ければよいという風潮が蔓延ったりしている観がありますが、もう少し心に余裕を持っていきたいものです。

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