かきつばた
かきつばたは、初夏、濃紫色の花を咲かせる、水湿地に群生して生育するアヤメ科の多年草植物です。
古典でもかきつばたが題材としてよく取り上げられています。
「むかし、男ありけり。その男、身をえうなきものに思ひなして、京にはあらじ、東の方に住むべき国求めにとて行きけり。もとより友とする人、ひとりふたりして、いきけり。道知れる人もなくて惑ひ行きけり。三河の国、八橋といふ所にいたりぬ。そこを八橋といひけるは、水ゆく河の蜘蛛手なれば、橋を八つ渡せるによりてなむ八橋といひける。その沢のほとりの木の蔭に下り居て、餉(かれいひ)食ひけり。 その沢に、かきつばたいとおもしろく咲きたり。それを見て、ある人のいはく、
「かきつばたといふ五文字を、句の上に据ゑて、旅の心をよめ」といひければよめる。
からごろも着つつなれにしつましあればはるばるきぬる 旅をしぞ思ふ
とよめりければ、みな人、餉の上に涙落して、ほとひにけり。」
『伊勢物語』第九段、東下り
縁語を巧みに用いた和歌ですが、各句の頭を読むとかきつばたとなります。
尾形光琳は、デザイン的に同じ形のかきつばたを散りばめた技巧をした国宝「燕子花図屏風」を描き、また、伊勢物語の八橋の場面を表現した国宝「橋蒔絵螺鈿硯箱」を制作しました。
また、能『杜若』という演目にもなっています。
いずれ、あやめか、かきつばた、と言いますが、伊勢物語の八橋のお陰で、かきつばたに少し分があるのかもしれません。