薄茶に於ける泡の経時的推移の考察
「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる例なし。 世の中にある、人と栖と、またかくの如し。」
『方丈記』鴨長明の著名な冒頭です。
さて、泡とは、儚いものの象徴ですが、液体や固体が中に気体を含んで丸くなったもので、気体を包む液体の表面張力で形作られます。
表面張力は界面部分に於いて液体が分子間力によって表面を出来るだけ小さくしようとする力のことです。
そして、表面張力によって泡の内外の両界面で得られた泡の安定化が、水の蒸発により崩れて泡が崩壊するのです。
宇宙の大規模構造は、宇宙の中で銀河の分布が示す巨大な泡のような構造のことで、宇宙の泡構造と呼ばれることもあります。
また、宇宙や大自然であるマクロコスモスに対して、ミクロコスモス(小宇宙)は人や社会を表しています。
そして、薄茶は、泡構造を有する宇宙のように、きめ細かい泡を表面に有しています。
イグノーベル賞という賞がありますが、その選考基準は以下の通りです。
The Ig Nobel Prizes honor achievements that first make people laugh, and then make them think. The prizes are intended
to celebrate the unusual, honor the imaginative — and spur people’s interest in science, medicine, and technology.
2002年に、イグノーベル賞物理学賞を受賞したミュンヘン大学のArnd Leike氏は、ビールの泡が指数的減衰の数学法則に従うことを立証しました。
“Demonstration of the Exponential Decay Law Using Beer Froth”
(European Journal of Physics, 2002, 23, 21-26)
研究対象となった3種のビールは、Erdinger Weissbier、Augustinerbräu München、Budweiser Budvarでした。
薄茶とビールの泡に関して考えると、ビールの泡は炭酸ガス(二酸化炭素)に起因していて、薄茶の泡は茶筅の攪拌に起因しています。
ビールの泡も薄茶の泡も水と気体から形成されており、両者の科学的な挙動は近似的に同じであろうと言えます。
空気の組成、窒素(MW28)78%、酸素(MW32)21%、二酸化炭素(MW44)0.037%であり、ビールの泡は炭酸ガスからほぼ成り、
薄茶の泡は窒素と酸素からほぼ成ります。
しかし、常圧での泡の崩壊は、化学反応ではなく物理現象であるので、気体の組成はあまり関係がありません。
ビールは水、エタノール(bp78ºC)、麦芽、ホップなどから成り、薄茶は熱水、抹茶から成ります。
そのため、液体の蒸発に相違があるかもしれませんが、泡崩壊の現象に劇的に違わないと思われます。
従って、薄茶の泡も、指数的減衰の数学法則に従うと考えられます。
結論としては、宇宙は銀河が泡のように散りばめられた構造をしていますが、きめ細かい泡を呈する薄茶も、恰も悠久の小宇宙であるかのようです。表面で輝きを放ちながらも指数的減衰でやがては消え去っていく運命にある泡には、小宇宙として人や社会の有り様などが自ずと投影され、鴨長明が『方丈記』の冒頭で述べる無常観が潜みます。
さて、点てられた一服の薄茶に様々な思いを巡らせるのもよいのではありませんか。



