匠の技が詰まった船箪笥を骨董として楽しむ

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■匠の技が詰まった船箪笥を骨董として楽しむ

▪船箪笥と北前船▪

別名として懸硯、帳箱、半櫃とも呼ばれていた船箪笥は、江戸時代から大正時代にかけて北前船で日本海を商いで渡航する船乗りが携帯していた小型箪笥のことです。

商人が、帳簿や資金など、商売に必要なものをその中に仕舞っていました。

 

北前船は、天下の台所である大坂(大阪)という流通の中心地と、北方の辺境の地である蝦夷地(北海道)という天然商材の仕入れ場であり、且つ、加工品を消費する地を、西廻り航路で往復した商船、ないしは、その商い方法です。つまり、供給地と消費地の間に存在する価格差によって利益を上げていました。

蝦夷地では昆布、ニシン、イワシ、サケ、タラなどが仕入れられ、大阪に向かう途中、個々の寄港地で売り捌いていきました。他方、大阪では米、塩、綿、薬などが仕入れられ、蝦夷地に向かう途中、個々の寄港地で売り捌いていきました。

こうして、現在の貨幣価値で約1億円にもなりました。ヨーロッパの東インド会社による商いに比べれば、確かに儲けは少ないかもしれませんが、リスクを考えればとてもいい商売であると言えます。

 

「海は荒海 向こうは佐渡よ」とは、北原白秋が作詞した「砂山」という童謡の冒頭部分です。この歌詞のように日本海は非常に荒れる海で、夏は比較的穏やかですが、季節風の影響で特に冬はとても大荒れとなります。

従って、航海は、春から秋にかけて、大阪と蝦夷地を1年に1往復するというものでした。船主と荷主が同一であることがほとんどであったと考えられます。

 

しかしながら、価格差がなくなるとともに、北前船というビジネスも成立しなくなります。実際、明治30年代には、帆船や蒸気船が発達したことに伴い、北前船はなくなりつつありました。

 

▪船箪笥の表情▪

船箪笥は、外側は欅材で造られ、内側は桐材で造られています。更に、外側には堅牢な黒い鉄金具が貼られています。

このように丈夫な外装によって、舟が難破したとしても箪笥が破壊されることがなく、海に浮いて漂うようになっているのです。これを回収すれば、船や積み荷は失われても、小判などの中身が確保されて事なきを得ることができます。それでも、船箪笥を回収したとしても、船主や荷主にしてみれば、損害は甚大とは思われます。

そして、欅という木目の美しい材と、それに貼られた黒い鉄材によって、船箪笥はとても素晴らしい雰囲気を醸し出しています。更に、この鉄細工には、文様や飾りが施されているのです。つまり、見られることが前提となっています。

このように、船箪笥の外観は、観賞において、とても惹き付けられるものとなっています。

 

▪船箪笥のからくり▪

北前船の大きさは、通常、500石から1,500石でした。千石船の積載量は150トンになります。従って、案外、大きな船であることが分かるように、多くの人が乗り込んでいました。そして、船団を組むことも珍しくありませんでした。

そのため、鉄製の錠前だけではなく、からくりが施されていて、容易に中にある大事なものが同じ船や別の船に乗っている誰かに、または、専業の泥棒に取られないようになっています。これで、常に見張っていなくても済みようになり、商いに専念することができるのです。

すなわち、隠し引き出し、二重底、落とし蓋、摩戸(ずりど)、かんぬきなどのからくりや細工が潜んでいるのです。

家具職人は、腕を競って船箪笥を造るようになり、さまざまなからくりや細工が仕込まれました。

 

▪柳宗悦と船箪笥▪

北前船で使われていた懸硯、帳箱、半櫃という小型箪笥を船箪笥と言い慣わしたのは、民芸運動で有名な柳宗悦でした。

重厚な船箪笥に用の美を見出したのは、さすが柳宗悦と賞嘆せざるを得ません。それだけではなく、風格にも美を見出しているのです。それ故、多くの人が見ても船箪笥に美を感じることができるのも不思議ではありません。

そして、柳宗悦は船箪笥が活躍できる暮らしが再び到来することを願っているのです。

 

▪アンティークとして楽しむ船箪笥▪

北前船に乗った人に使われた船箪笥ですが、現代の人にとっては、美しい見た目、そして、からくりは、とても興味を惹くものです。そして、大きさも小型で、手頃なサイズとなっています。

そのため、モダンな仕様である現代住宅にあって、江戸時代や明治時代に製作された船箪笥の存在感は、部屋に重厚な雰囲気を創出するものです。

是非とも、部屋の中に置きたい逸品であると言えます。

 

▪まとめ▪

以上より、船箪笥は、北前船で使われていた金庫のような小型箪笥で、中のものが盗まれないような仕組みが幾つも施されています。そして、船が難破してもいいように木目がきれいな欅の外材に、黒い鉄製の板などが装飾的に貼り付けられています。

それ故、巧妙なからくりと美しい外観から、現代の人にも骨董家具としてとても人気を博しています。日常で使える骨董として船箪笥が活躍することは、柳宗悦の願望に通じるものがあるのではないでしょうか。

それでは、近代生活の中に船箪笥を取り入れて、アンティークのある暮らしを満喫してみてください。

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