世界で行われているハロウィンに似た行事
比較基準となるハロウィン
現在行われているハロウィンは、古代ケルト人が夏の終わりと冬の始まりの時季で、一年の終わりである大晦日の10月31日に、収穫感謝祭や悪霊払いとして実施されたサーウィン（Samhain）が基になっています。この日には、この世とあの世の境界が不明瞭となって両世界を通じる門が開き、あの世から死者の魂や悪霊などがこの世に現れると信じられていました。
そのため、ドルイド祭司はかがり火を焚いて悪霊などを遠ざけたり、収穫物や動物をかがり火で焼いて神々に捧げて収穫を感謝したり、来年の豊穣を祈ったりしました。また、先祖の霊や悪霊に捧げられた食べ物が並べられました。
このハロウィンと似た行事が世界各地で行われているのです。それらを比較文化的に概観していくことにしましょう。
ヴァルプルギスの夜
ドイツのハルツ地方で行われる魔女祭りであるヴァルプルギスの夜（Walpurgisnacht）は、4月30日に開催され、街中、魔女の仮装をした人で溢れます。というのも、この地方にあるブロッケン山に魔女が集って饗宴をすると言われているからです。ゲーテの戯曲『ファウスト』に、ブロッケン山におけるヴァルプルギスの夜が登場します。
また、ヴァルプルギスの夜は、スウェーデン、フィンランド、エストニア、スコットランドのような他の地域でも行われています。スウェーデンやフィンランドでは魔女は関与しませんが、エストニアはドイツの影響で魔女が関与します。但し、スコットランドの場合、エジンバラは1980年代半ばに復活された火祭りです。
古代ケルト人は、5月1日にベルテーン（Beltane）の日として冬の終わりと夏の始まりを祝いました。ベルテーン祭の前日は、大きなかがり火が焚かれ、その上を飛び越えたり、その周りで踊ったりしました。サーウィンとベルテーンは、古代ケルト人にとって重要な儀式でした。
この前夜祭が、中世に魔女と結びついてドイツのハルツ地方におけるヴァルプルギスの夜になったと考えられます。ゲルマン人の文化にキリスト教の影響だけではなく、ケルト文化も残っているのは興味深いです。
お盆
お盆とは祖先の霊を供養する日本の行事で、かつては旧暦の7月13日から16日に行われていましたが、現在は8月13日から16日に行われています。
13日の夕刻に迎え火を焚いて、先祖の霊を迎えます。そして、墓参りをしたり、家の中に提灯を灯してお供え物を飾ったりします。15日の晩から16日の黎明まで盆踊りをして先祖や死者を供養しました。最後に、16日の夕刻に送り火を焚いて送り出します。
清明祭
二十四節気の清明にあたる4月上旬の時期に、中国や沖縄では清明祭が行われます。先祖の墓に親戚が集まって、掃除や草むしりをしてきれいにした後、線香や花や料理を添えます。そして、その場所で、一同でお下がり物として料理を食べて歓談します。
この時期は丁度、春雨の降る前ですので、掃除や墓参をするのに適していると思われます。
新嘗祭
稲の収穫を感謝するとともに翌年の豊穣を祈る日本の祭事です。旧暦11月の中の卯の日に行われていましたが、新暦となった明治6年（1873年）以降は11月23日となりました。
宮中、伊勢神宮、出雲大社以外にも各地の神社で実施されます。
『古事記』に、天照大御神が新嘗祭をしたことが記されています。
万霊節
カトリック教会の典礼暦で、11月2日は万霊節に定められており、死者の霊を祀ります。かつて、この際、貧しい人が裕福な人の家を訪ねて、その家の先祖に対するお祈りをするとお菓子のようなものをもらうというsouling（ソウリング）と呼ばれるものが行われました。これが、後にハロウィンのトリック・オー・トリート（Trick or Treat.）になったと考えられています。
死者の日
メキシコでは、10月31日から11月2日にかけて死者の霊を祀る死者の日という行事が行われます。スペインが侵攻した際に、もともとの行われていた先祖や死者の供養をする行事が11月2日は万霊節に置き換わったものと考えられています。
街中が、骸骨の人形で溢れかえります。また、骸骨のお菓子やパンが供えられます。そして、この世に来た魂のうち、11月1日には子供の魂が、11月2日には大人の魂が戻るとされています。
2003年に、この死者の日は、ユネスコの無形文化遺産として世界遺産となりました。
まとめ
以上より、ハロウィンに似た行事が世界各国にあることが分かりました。ヴァルプルギスの夜、死者の日はまさにハロウィンといった感じです。しかし、日本の伝統的な行事には仮装の風習はないようですが、盆踊りで衣装に凝ることもあるようです。
生きている者にとって避けることはできない死に対して恐怖と畏怖を抱くとともに、親しかった故人などを忍ぶという行為は、古今東西、共通したものと考えられます。
それでは、疑似ハロウィン巡りをしながら年間通して各地を旅してみるのも面白いかもしれません。とはいうものの、まずは、身近な行事に参加してみてください。
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