大阪の茶室での文学鑑賞、『利休にたずねよ』「恋」之段

『利休にたずねよ』、山本兼一

与四郎十九歳 天正九年六月某日 泉州 堺の浜

(前略)

―女より、茶の湯の道具のほうが、よほど気高く美しい。

しだいに、与四郎はそう思うようになっていた。(略)

ところが―

いま、奥の土蔵にいるあの女は、まったく違って見える。

(略)

―ひとまず、浜に行こう。

与四郎はそう決めた。

堺の湊は、小さな丸い入江である。

湊のそばには舶載品をしまっておく納屋が建ちならび、家も人も多くて繁華だが、そこさえはずれてしまえば、南には松林のつづく砂浜がある。(略)

あのあたりの浜なら、漁師たちが地曳き網をひくときのほかは、ほとんど人影がない。見つからずに小舟を盗めるかもしない―。

女の手を引いて走りながら、そう考えた。

(略)

槿花一日自為栄

何須恋世常憂死

(略)

湯がもう沸いている。

与四郎は、膝の前に、道具をならべた。石見銀山の入った赤い袋を女に見せた。女が目でうなずいた。なかの薬包を取り出し、茶杓でほんのわずかにすくって茶碗にいれた。棗のお茶をいれ、鉄鉢の湯を注いで茶筅をうごかした。最後にゆっくりと“の”の字にまわして茶筅を止めた。

(後略)

寄付待合

軸 宝船 清暉筆

香炉 青磁千鳥香炉 蘇嶐造

テクスト 文芸文庫、『利休にたずねよ』、山本兼一

本席

軸 閑坐聴松風 鵬雲斎大宗匠筆

花 槿花

花生 南蛮粽花入

敷板 黄金壇薄板

香合 海上がり安南花唐草染付小太鼓合子

釜 万代屋釜 敬典造

風炉先 更紗(バティック) 紺々堂製

棚 丸卓

水指 松之絵水指 二代香雲造

茶碗 李朝 青井戸

古袱紗 荒磯

茶入 瀬戸 大海

仕覆 一重牡丹唐草

薄器 海松文中棗 桂山造

茶杓 松の翠 大亀老師造

蓋置 色絵波頭 清閑寺窯造

建水 唐銅フエゴ 淨雲造

水次 仁清写渦 泉山窯 宝泉造

主菓子 浜昼顔 鶴屋八幡製(大阪)

銘々皿 デルフト焼染付皿など

茶碗 刷毛目 銀浪 鈍阿造

茶杓 夜舟 宗旦写 二代瓢阿造

干菓子 鯛 貝 河藤製(大阪)

干菓子器 四方盆 煌又造

皆様も、『利休にたずねよ』を楽しまれてはいかがでしょうか。

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