借景 斑鳩

斑鳩

 

和辻哲郎 『古寺巡礼』

 

この建築の柱が著しいエンタシスを持っていることは、ギリシア建築との関係を思わせてわれわれの興味を刺戟する。シナ人がこういう柱のふくらみを案出し得なかったかどうかは断言のできることでないが、しかしこれが漢式の感じを現わしているのでないことは確かなように思う。仏教と共にギリシア建築の様式が伝来したとすれば、それが最も容易な柱にのみ応用せられたというのも理解しやすいことで、これをギリシア美術東漸の一証と見なす人の考えには十分同感ができる。もしシナに漢代から唐代へかけてのさまざまの建築が残っていたならば、仏教渡来によって西方の様式がいかなる影響を与えたかを明白にたどることができたであろう。しかるにその証拠となる建築は、ただ日本に残存するのみなのである。そうなると法隆寺の建築は、極東建築史の得難い縮図だということになる。その縮図のなかにあの柱のふくらみが、著しく目立つ現象として、宝石のように光っているのである。しかし一歩を進めていうと、この建築は、単に柱のエンタシスのみならず、その全体の構造や気分において、西方の影響を語っている。(略)

 

もう一つこの日の新発見は、五重塔の動的な美しさであった。天平大塔がことごとく堙滅し去った今日、高塔の美しいものを求めればこの塔の右にいづるものはない。塔の好きなわたくしはこの五重塔の美しさをあらゆる方角から味わおうと試みた。中門の壇上、金堂の壇上、講堂前の いしどうろう石燈籠 の傍、講堂の壇上、それからまた石燈籠の傍へ帰り、右へ回って、回廊との間を中門の方へ出る。さらにまた塔の軒下を、頸が痛くなるほど仰向いたまま、ぐるぐる回って歩く。この漫歩の間にこの塔がいかに美しく動くかを知ったのである。

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