鉢木
寒い時季に使われる銘に、鉢木があります。
いざ鎌倉、という言葉がプロパガンダとなっていた鎌倉時代の逸話が銘の由来になっています。
5代執権北条時頼が僧の姿で、上野国佐野で一夜の宿を求めて、零落した家にその旨をお願いします。
それを承諾した佐野源左衛門常世は、粟飯でもてなし、薪がないため、大事な梅、松、桜の盆栽を切って囲炉裏にくべて暖を取ります。
そして、僧を語る際に、所領を一族の者に取られて零落しているが、具足と薙刀と馬は何とか所持できているので、鎌倉に有事が起こったら、駆けつける所存であることを打ち明けます。
翌朝、僧は名残を惜しみながら立ち去っていきました。
やがて、鎌倉で兵が招集されたときに、常世は以前の言葉の通りに鎌倉に駆けつけました。
すると、時頼は常世を御前に召し出し、以前に一夜の宿を求めた際の僧であったことを打ち明けます。
そして、常世の忠誠心に対して、また、かつての礼として、旧領を回復させるとともに、梅、松、桜の名に因んだ梅田・松井田・桜井という領地を与えました。
常世は喜び、佐野へ戻るのでした。
この話は、能の演目である『鉢木』ともなっています。
鉢木の逸話は、御恩と奉公という土地を介した鎌倉時代の武家社会のあり方がよく現れています。
それから、常世のもてなしの心を是非とも参考にしたいものです。