玄宗

玄宗は、唐の第9代皇帝で、垂拱1年(685年)に洛陽で生まれ、上元2年(762年)に長安で亡くなっています。

在位は、先天1年(712年)から天宝15年(756年)になります

 

武周の消滅後に乱れた唐王朝においてクーデターを起こし、父である睿宗を景雲1年(710年)に復位させました。

そして、2年後に、玄宗は帝位に就きます。

 

初めの頃は、太宗の貞観の治を見本とした、開元の治と呼ばれる治世を実施します。

やがて、唐は全盛期を迎えました。

 

ところで、玄宗は、白居易の「長恨歌」のモデルになった皇帝です。

楊貴妃を耽溺して、政治を顧みなくなり、やがて、755年に、安禄山と史思明による安史の乱が起こります。

その結果、太宗達は四川へ逃れますが、その道中で、楊貴妃の又従兄である宰相の楊国忠は兵に殺され、また、楊貴妃も処刑されてしまいました。

 

「長恨歌」は押さえておきたい古典の1つです。

源氏物語にも関係していますので、かつては常識となっていたと思われます。

 

「長恨歌」

漢皇重色思傾国 (漢皇色を重んじて傾国を思ふ

御宇多年求不得  御宇多年求むれども得ず

楊家有女初長成  楊家に女有り、初めて長成し

養在深閨人未識  養はれて深閨に在り、人未だ識らず

天生麗質難自棄  天生の麗質自ら棄て難く

一朝選在君王側  一朝選ばれて君王の側に在り

迴眸一笑百媚生  眸を迴らして一笑すれば百媚生じ

六宮粉黛無顔色  六宮の粉黛、顔色無し

 

春寒賜浴華清池  春寒くして浴を賜ふ、華清の池

温泉水滑洗凝脂  温泉水滑らかにして凝脂を洗ふ

侍児扶起嬌無力  侍児扶け起こすに嬌として力無し

始是新承恩沢時  始めて是れ新たに恩沢を承くる時

雲鬢花顔金歩揺  雲鬢花顔、金歩揺

芙蓉帳暖度春宵  芙蓉の帳暖かにして春宵を度る

春宵苦短日高起  春宵短きに苦しみ日高くして起く

従此君王不早朝  此れ従り君王早朝せず

 

承歓侍宴無閑暇  歓を承け宴に侍して閑暇無く

春従春遊夜専夜  春は春の遊びに従ひ夜は夜を専らにす

後宮佳麗三千人  後宮の佳麗三千人

三千寵愛在一身  三千の寵愛一身に在り

金屋粧成嬌侍夜  金屋、粧ひ成りて嬌として夜に侍し

玉楼宴罷酔和春  玉楼、宴罷んで酔ひて春に和す

姉妹弟兄皆列土  姉妹弟兄皆土を列ぬ

可憐光彩生門戸  憐れむべし光彩の門戸に生ずるを

遂令天下父母心  遂に天下の父母の心をして

不重生男重生女  男を生むを重んぜず女を生むを重んぜしむ

 

驪宮高処入青雲  驪宮、高き処青雲に入り

仙楽風飄処処聞  仙楽、風に飄へりて処処に聞こゆ

緩歌慢舞凝糸竹  緩歌慢舞糸竹を凝らし

尽日君王看不足  尽日君王看れども足らず

漁陽鞞鼓動地来  漁陽の鞞鼓、地を動かして来たり

驚破霓裳羽衣曲  驚破す、霓裳羽衣の曲

 

九重城闕煙塵生  九重の城闕、煙塵生じ

千乗万騎西南行  千乗万騎西南に行く

翠華揺揺行復止  翠華、揺揺として行きて復、た止まり

西出都門百余里  西のかた都門を出ずること百余里

六軍不発無奈何  六軍発せず奈何ともする無く

宛転蛾眉馬前死  宛転たる蛾眉、馬前に死す

花鈿委地無人収  花鈿、地に委して人の収むる無し

翠翹金雀玉搔頭  翠翹、金雀、玉搔頭

君王掩面救不得  君王面を掩ひて救ひ得ず

迴看血涙相和流  迴り看て血涙相和して流る

 

黄埃散漫風蕭索  黄埃散漫、風蕭索

雲桟縈紆登剣閣  雲桟縈紆、剣閣に登る

峨眉山下少人行  峨眉山下人の行くこと少に

旌旗無光日色薄  旌旗、光無く日色薄し

蜀江水碧蜀山青  蜀江は水碧にして蜀山は青く

聖主朝朝暮暮情  聖主朝朝暮暮の情

行宮見月傷心色  行宮に月を見れば心を傷ましむるの色

夜雨聞鈴腸断声  夜雨に鈴を聞けば腸断つの声

 

天旋日転迴竜馭  天旋り日転じて竜馭を迴らし

到此躊躇不能去  此に到りて躊躇して去る能はず

馬嵬坡下泥土中  馬嵬の坡下、泥土の中

不見玉顔空死処  玉顔を見ず空しく死せし処

君臣相顧尽霑衣  君臣相顧みて尽く衣を霑し

東望都門信馬帰  東のかた都門を望み馬に信せて帰る

 

帰来池苑皆依旧  帰り来たれば池苑、皆旧に依る

太液芙蓉未央柳  太液の芙蓉、未央の柳

芙蓉如面柳如眉  芙蓉は面のごとく柳は眉のごとし

対此如何不涙垂  此に対して如何ぞ涙の垂れざらん

春風桃李花開夜  春風桃李花開く夜

秋雨梧桐葉落時  秋雨梧桐葉落つる時

西宮南苑多秋草  西宮南苑秋草多く

宮葉満階紅不掃  宮葉階に満ちて紅掃はず

梨園弟子白髪新  梨園の弟子、白髪新たに

椒房阿監青娥老  椒房の阿監、青娥老いたり

 

夕殿蛍飛思悄然  夕殿蛍飛んで思ひ悄然

孤灯挑尽未成眠  孤灯挑げ尽くすも未だ眠りを成さず

遅遅鐘鼓初長夜  遅遅たる鐘鼓、初めて長き夜

耿耿星河欲曙天  耿耿たる星河曙けんと欲するの天

鴛鴦瓦冷霜華重  鴛鴦の瓦冷ややかにして霜華重く

翡翠衾寒誰与共  翡翠の衾、寒くして誰と与共にせん

悠悠生死別経年  悠悠たる生死別れて年を経たり

魂魄不曾来入夢  魂魄曾て来たりて夢にも入らず

 

臨邛道士鴻都客  臨邛の道士鴻都の客

能以精誠致魂魄  能く精誠を以て魂魄を致す

為感君王展転思  君王展転の思ひに感ずるが為に

遂教方士殷勤覓  遂に方士をして殷勤に覓めしむ

排空馭気奔如電  空を排し気を馭して奔ること電のごとく

昇天入地求之遍  天に昇り地に入りて之を求むること遍し

上窮碧落下黄泉  上は碧落を窮め下は黄泉

両処茫茫皆不見  両処茫茫として皆見へず

忽聞海上有仙山  忽ち聞く海上に仙山有りと

山在虚無縹緲間  山は虚無縹緲の間に在り

楼閣玲瓏五雲起  楼閣玲瓏として五雲起こり

其中綽約多仙子  其の中、綽約として仙子多し

中有一人字太真  中に一人有り字は太真

雪膚花貌参差是  雪膚花貌、参差として是れなり

 

金闕西廂叩玉扃  金闕の西廂に玉扃を叩き

転教小玉報双成  転じて小玉をして双成に報ぜしむ

聞道漢家天子使  聞道くならく漢家天子の使ひなりと

九華帳裏夢魂驚  九華の帳裏夢魂驚く

攬衣推枕起徘徊  衣を攬り枕を推して起ちて徘徊す

珠箔銀屛邐迤開  珠箔銀屛、邐迤として開く

雲鬢半偏新睡覚  雲鬢半ば偏りて新たに睡りより覚め

花冠不整下堂来  花冠整へず堂を下り来たる

風吹仙袂飄颻挙  風は仙袂を吹ひて飄颻として挙がり

猶似霓裳羽衣舞  猶ほ霓裳羽衣の舞に似たり

玉容寂寞涙闌干  玉容寂寞、涙闌干

梨花一枝春帯雨  梨花一枝春雨を帯ぶ

 

含情凝睇謝君王  情を含み睇を凝らして君王に謝す

一別音容両渺茫  一別音容両つながら渺茫たり

昭陽殿裏恩愛絶  昭陽殿裏、恩愛絶え

蓬萊宮中日月長  蓬萊、宮中日月長し

迴頭下望人寰処  頭を迴らして下人寰の処を望めば

不見長安見塵霧  長安を見ずして塵霧を見る

唯将旧物表深情  唯だ旧物を将て深情を表さんと

鈿合金釵寄将去  鈿合金釵、寄せ将ち去らしむ

釵留一股合一扇  釵は一股を留め合は一扇

釵擘黄金合分鈿  釵は黄金を擘き合は鈿を分かつ

但令心似金鈿堅  但だ心をして金鈿の堅きに似せしめば

天上人間会相見  天上人間会ず相見えんと

 

 

臨別殷勤重寄詞  別れに臨んで殷勤に重ねて詞を寄す

詞中有誓両心知  詞中に誓ひ有り両心のみ知る

七月七日長生殿  七月七日長生殿

夜半無人私語時  夜半人無く私語の時

在天願作比翼鳥  天に在りては願はくは比翼の鳥と作り

在地願為連理枝  地に在りては願はくは連理の枝と為らんと

天長地久有時尽  天は長く地は久しきも時有りて尽くとも

此恨綿綿無絶期  此の恨み綿綿として絶ゆるの期無からん

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